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インテグレイティブ・ペイシェント・エクスペリエンス [IPX ]

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患者中心の医療の実現と『エンパワメント(Empowerment)』

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欧米では1980 年代当時、すでに「インフォームド・コンセント(informed consent)」「患者の自己決定」を重視する、いわゆる『患者中心型の医療(patient centered medicine)』が実施されていた。

1980年代初頭には、完治が難しい病気をもつ人たちの意欲を高め、自己管理技術を伝える『慢性疾患セルフマネジメントプログラム(Chronic Disease Self-Management Program:CDSMP)』の開発が米国スタンフォード大学医学部患者教育研究センターで始められた。
 

プログラム開発にあたっては、カナダ人心理学者の「アルバート・バンデューラ(Albert Bandura)」が提唱したセルフマネジメントプログラムの柱となる『自己効力感(self-efficacy)』に関する理論を用い、参加者が病気に対処しながら生きていくことへの自信を高めつつ、行動変容を促せるようにデザインされた。

 
CDSMP は、完治が難しい病気をもつ人たちの自己管理を支援する教育プログラムであり、イギリスでは「セルフケア(self care)」が2000年代以降、国策の一つの柱として、慢性疾患患者による「セルフマネジメント(self management)」の研究・実践はますます注力され、その成果は日本をはじめ多くの国々に浸透していった。

我が国では CDSMP の導入に向け2004 年に複数の患者会が合同でスタンフォード大学へ視察に赴き、2005年にプログラム実施のためのリーダーの養成が開始、日本語版教材(リーダー用マニュアル、参考書)が作成・導入され、プログラムの提供が始まった。

プログラムの実施方法や内容は海外で実施されているものとほぼ同一であり、現在は「特定非営利活動法人日本慢性疾患セルフマネジメント協会」が CDSMP を提供している。
 

特に、イギリスにおいては、国民保健サービスまたは国民医療サービス、国立医療サービス、国民医療制度である『NHS(National Health Service)』が国家政策として導入。『エキスパート・ペイシェント・プログラム(Expert Patients Programme:EPP)』という名称で、国内各地で開催されている。

 
イギリスのセルフケア振興策のハイライトの一つが『エキスパート・ペイシェント・プログラム(Expert Patients Programme:EPP)』である。

『エキスパート・ペイシェント・プログラム(Expert Patients Programme:EPP)』は、「何らかの慢性疾患を持つ人々が、その症状に上手く対処しながら社会生活を送るセルフマネジメント・スキルを獲得するためにつくられたトレーニング・プログラム」であり、保健省の主導により2002年にスタートした。
 

このプログラムは、米国スタンフォード大学患者教育研究センターの「Kate Lorig(ケイト・ローリッグ博士)」らが開発した『慢性疾患セルフマネジメントプログラム(Chronic Disease Self-Management Program:CDSMP)』のメソッドをベースにしたものである。

 
EPPは、『素人主導(lay led)のプログラム』と言われており、医療の専門職従事者の介入がなく、運営全般を慢性疾患患者自身が行っており、「素人主導(lay led)というコンセプト」はイギリスにおいて、患者と医療者の間の上下関係を解消し、対等なパートナーシップのもとでの「患者中心の医療」の実現に向け、患者の『エンパワメント(Empowerment)』を図る取り組みとして紹介され、国家の保健施策として実施されている。
 

『エンパワメント(Empowerment)』とは一般的に、個人や集団が自らの生活への統御感を獲得し、組織的、社会的、構造に外郭的な影響を与えるようになること、人びとに夢や希望を与え、勇気づけ、人が本来持っているすばらしい、生きる力を湧き出させることと定義される。

 
対義語はディスエンパワメント。エンパワメントされていない状態のことをいう。

エンパワメントという言葉は、20世紀を代表するブラジルの教育思想家である「Paulo Freire(パウロ・フレイレ)」の提唱により、彼の教育実践から社会学的な意味で用いられるようになり、ラテンアメリカを始めとした世界の先住民運動や女性運動、あるいは広義の市民運動などの場面で用いられ、実践されるようになった概念である。

エンパワメントの概念が焦点を絞っているのは、人間の潜在能力の発揮を可能にするよう平等で公平な社会を実現しようとするところに価値を見出す点であり、たんに個人や集団の自立を促す概念ではない。

エンパワメント概念の基礎を築いた「John Friedmann(ジョン・フリードマン)」はエンパワメントを育む資源として、生活空間、余暇時間、知識と技能、適正な情報、社会組織、社会ネットワーク、労働と生計を立てるための手段、資金をあげ、それぞれの要素は独立しながらも相互依存関係にあるとしている。
 

地方自治や弱者の地位向上など下から上にボトムアップする課題を克服していく上で、活動のネットワークが生み出す信頼、自覚、自信、責任等の関係資本を育むことが、『エンパワメント向上の大きな鍵』とされている。

 
保健医療福祉実践や企業活動におけるエンパワメントには、人は誰もがすばらしい力を持って生まれ、生涯にわたりそのすばらしい力を発揮し続けることができるという前提がある。 そのすばらしい力を引きだすことがエンパワメントであり、ちょうど清水が泉からこんこんと湧き出るように、「一人ひとりに潜んでいる活力や可能性を湧き出させること」がエンパワメント(湧活)である。

医療や福祉などの実践では、一人ひとりが本来持っているすばらしい潜在力を湧きあがらせ、顕在化させて、活動を通して人々の生活、社会の発展のために生かしていく。また、企業などの集団では、社員一人ひとりに潜んでいる活力や能力を上手に引き出し、この力を社員の成長や会社の発展に結び付けるエネルギーとする。これが組織、集団そして人に求められるエンパワメント(湧活)である。

エンパワメントには3つの種類があり、セルフ・エンパワメント(自分エンパワメント)、ピア・エンパワメント(仲間エンパワメント)、コミュニティ・エンパワメント(組織/地域エンパワメント)である。これらを組み合わせて使うことがエンパワメントの実現に有効であり、「エンパワメント相乗モデル」という。
 
エンパワメントの原則は下記の8点。
 

(1) 目標を当事者が選択する。
(2) 主導権と決定権を当事者が持つ。
(3) 問題点と解決策を当事者が考える。
(4) 新たな学びと、より力をつける機会として当事者が失敗や成功を分析する。
(5) 行動変容のために内的な強化因子を当事者と専門職の両者で発見し、それを増強する。
(6) 問題解決の過程に当事者の参加を促し、個人の責任を高める。
(7) 問題解決の過程を支えるネットワークと資源を充実させる。
(8) 当事者のウエルビーイング ※1に対する意欲を高める。

 
エンパワメントを実現するためには、「8つの指標(Eight Values for Empowerment)」を満たすことが求められ、これらは評価指標として活用することができる。
 

(1) 共感性 empathy
メンバー間、あるいはメンバーのプログラムへの共感性はどの程度か?
あるのかないのか、あるなら限定的なものなのか発展的なものなのか?
(2) 自己実現性 self-actualization
メンバーひとりひとりが、どの程度自己実現できていると感じているか?
(3) 当事者性 inter sectral
メンバーひとりひとりが、人ごとではなく、自分のこととしてかかわっているか?
(4) 参加性 participation
メンバーひとりひとりが、どの程度参加していると感じているか?
(5) 平等性 equity
参加者が、プログラムの内容やフィードバックを平等であると感じているか?
(6) 戦略の多様性 multi strategy
ワンパターンではなく、さまざまな戦略を複合的に組み合わせてプログラムを遂行しているか?
(7) さまざまな状況への適用性 contextualism
参加者や環境が変化しても、プログラムは対応できるか?
(8) 継続性 sustainability
プログラムには、安定した継続の見通しがあるか?

 


1 ウェルビーイング現代的ソーシャルサービスの達成目標として、個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを意味する概念。1946年の世界保健機関(WHO)憲章草案において、「健康」を定義する記述の中で「良好な状態(well‐being)」として用いられた。最低限度の生活保障のサービスだけでなく、人間的に豊かな生活の実現を支援し、人権を保障するための多様なソーシャルサービスで達成される。一部の社会的弱者のみを対象とした救貧的で慈恵的な従来の福祉観に基づいた援助を超え、予防・促進・啓発といった、問題の発生や深刻化を防ぐソーシャルサービス構築に向けての転換が背景にある。


人間の主体性の核『メタ認知(meta cognition)能力』


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