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ポストモダン・マーケティング

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ユーザビリティ概念の登場と発展

 

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Shackelの考え方から

 

ユーザビリティという概念をアカデミックな立場から最初に扱ったのは1984年のShackelでした。

1991年に刊行された著書で、Shackel and Richardsonは、機器やシステムに必要とされることが機能として提供されているかどうかをユーティリティ(utility)と呼び、ユーザがその機器やシステムを利用してうまく仕事ができるかを「ユーザビリティ」、ユーザがその機器やシステムを適切なものと思うかどうかを「ライカビリティ(likeability)」と呼び、それらを合わせたものが、初期費用と運用費用、社会や組織における導入効果を総合した費用(cost)と見合っているかどうかが大切であるとしたのです。

ユーティリティとユーザビリティ、それとライカビリティという特性と費用との間のトレードオフが受容可能な範囲であれば、「受容可能性(acceptability)」がある、と呼んでいます。

新しい概念が登場するには、それなりの必要性や背景があるものですが、Shackelは、ユーザビリティという概念が必要となった背景には「コンピュータの発展と普及があった」と述べています。

1950年代までは数学者や科学者の研究の道具であったコンピュータは、1960年代から1970年代に登場したメインフレームによってデータ処理に利用されるようになり、さらに1970年代のミニコンピュータやオフィスコンピュータによって、コンピュータの専門家以外の人たちによる利用が盛んになり、その後1980年代にパーソナルコンピュータやワードプロセッサの普及という形で、マイクロコンピュータの時代となったのです。

それまで以上に多くの人々がそれを利用するようになり、使いにくさや分かりにくさが従来以上に問題になってきた中で「ユーザビリティ」が重要な問題になったという訳です。

ユーザビリティという概念が焦点化された時期の取り組み方は、コンピュータを含む対話型の機器の開発のなかで、ユーザビリティに関する評価を行い、問題  点を発見する、というものでした。そのために「ユーザビリティラボ(usability laboratory)」と呼ばれる実験室が整備されたり、「ユーザビリティテスト(usabilitytest)」という手法が整備されたりしたのです。


Nielsenの考え方から

 

Shackelに続き、1993年にはNielsenがその著作において、ユーザビリティを含む関連概念の「木構造モデル」を提起しました。

なお、その時期まで、ほぼ同じ意味で「ユーザフレンドリー(user friendly)」という表現も使われていたましたが、その学問的な曖昧さが批判され、消滅していったのです。

Nielsenの木構造モデルでは、Shackelのようにユーザビリティがユーティリティと併置され、「ユースフルネス(usefulness)」という品質特性の下に位置づけられています。そしてユースフルネスは、費用、互換性(compatibility)、メンテナンス(maintenance)、信頼性(reliability)や安全性(safety)とともに、受容可能性(acceptability)の下に位置づけています。

受容可能性というのは、ユーザに購入してもらえ、利用してもらえることを意味しています。

ISO 25010における製品品質や利用品質と比較すると、品質特性の悉皆性については批判も可能ではあるのですが、対象がソフトウェアから機器やシステムに広がったことが関係し、それらに共通な品質特性だけを選りすぐったものと考えて良いと考えます。

しかし、Shackelとは異なり、ライカビリティは満足という形でユーザビリティの下に位置づけられており、その他、ユーザビリティの下位概念としては、学習のしやすさ(learnability)、効率、記憶しやすさ(memorability)、エラーが起きないこと(errors)、満足が位置づけられています。

このような形でNielsenは、ユーザビリティの概念構造を具体的に規定する試みを行っていますが、ただ、ユーザビリティの下位概念は、ポジティブなものではなく、ネガティブな問題点がないこと、を意味しているのです。

Nielsenは、「ユーザビリティ工学(usability engineering)」を提唱するとともに、その評価手法として「ヒューリスティック評価(heuristic evaluation)法」を提唱しています。その手法では、以下のような10個のヒューリスティックス原則(usability heuristics)を考慮しながら、ユーザビリティの専門家が直感と洞察にもとづいて問題発見を行います。

つまり、単純で自然な対話を行うこと、ユーザの言葉を話すこと、ユーザの記憶の負担を最小にすること、一貫性を持たせること、フィードバックを与えること、明瞭な出口を設定しておくこと、ショートカットを用意しておくこと、良いエラーメッセージを提供すること、エラーを防ぐこと、ヘルプやドキュメントを用意しておくことの10個です。

評価において評価者は、これらの原則を頭においてプロトタイプや製品を評価するのです。

このように、評価法をベースにしたユーザビリティ概念では、発見される問題が少ないことがユーザビリティが高いことを意味しており、ネガティブな面を少なくすることが高いユーザビリティを持つことと考えられてしまうこととになるのです。

しかし、そうしたnon-negativeな面でのユーザビリティは、それが高い水準であったとしても、商品性、すなわち売り上げにはつながらないという理由から、ユーザビリティ活動の普及には今一歩拍車がかからない状態が続いたのです。

他方、彼のモデルでユーザビリティと並置されたユーティリティは機能や性能を意味するものであり、positiveな製品の魅力につながるものであるため、当時の企業における関心はユーティリティ重視の方向に傾いてしまっていました。

Nielsenの貢献は、ユーザビリティに関する問題意識を、具体的な評価基準を明示し、評価手法を提唱したことによって高めた点にありますが、ユーザビリティ活動がそれ以上の活性度を得るには、ISO 9241-11の登場と、「ウェブユーザビリティ」の隆盛を待たねばならなかったのです。


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