完治が難しい病気をもつ人たちの意欲を高め、自己管理技術を伝えるのが『慢性疾患セルフマネジメントプログラム(Chronic Disease Self-Management Program:CDSMP)』であり、プログラム開発にあたっては「アルバート・バンデューラ(Albert Bandura)」が提唱する『自己効力感(self-efficacy)』に関する理論を用い、参加者が病気に対処しながら生きていくことへの自信を高めつつ、行動変容を促せるようにデザインされている。
自己効力感とは「ある具体的な状況において適切な行動を成し遂げられるという予期、および確信」であり、「ある行動がその人にとって意味のある結果をもたらすという信念」である『結果予期』と、「その結果を生み出すために必要な行動を遂行できるという確信」である『効力予期』から成る。
自己効力感を向上させる主な要因は自己効力感理論によると、遂行行動の達成、代理的経験、言語的説得、情動喚起(生理的情緒的高揚)の四つとされている。
「遂行行動の達成」とは、その行動を実際に行ったことがあるという経験であり、モデルと一緒に行為する参加モデリング、弱い刺激から徐々に強い刺激に慣らしていく脱感作や自分に言い聞かせて(自己教示)遂行するなどの導入形態がある。
「代理的経験」とは観察学習させることであり、実際のモデリングと象徴的(シンボリック)なモデリングがある。
「言語的説得」とは、自分または他者からの言語による説得によってその行動ができると思いこませることである。
「情動喚起」とは、行動を起こさせるような情動を喚起することで、帰属による情動の喚起、リラクゼーション、シンボリックな脱感作などがある。
つまり『自己効力感(self-efficacy)』とは、自分が行為の主体であり、自分の行為が自己の統制下にあって、外界の要請に応じて適切な対応を生み出しているという確信・感覚である。
自己効力感理論の提唱者であるバンデューラは、『人間の主体性の核心』として①意図性、②事前考慮、③自己反応性、④自己内省性の四つをあげている。
つまり主体性は、①行為が意図的に行われること、②将来の出来事を予想して自分を動機づけ、自分自身の行動を計画しガイドすること、③思考と行為を結びつける自己調整過程を通して自己指向性を作用させることである。さらに、④自分自身や自分の思考と行為の妥当性を熟考する『メタ認知能力』が主体性の核であるとしている。
またバンデューラは、『人間の主体性の形態』として、「個人的・代理的・集合的」の三つを区別しており、行動の主体となる個人に焦点があてられて、自己効力の研究が進んできた。
しかし、個人だけが行動の主体ではなく、個人の代わりとなる他者が主体である場合もある。
例えば、親子関係や夫婦関係のように、自分自身の幸福な状態、安全、価値ある結果を代理の人(子どもなら親,夫婦なら相方)の働きに求める場合である。
『代理的主体性』は、他者の仲介的な努力の協力を得るために、知覚された社会的効力をあてにしている。さらに、個人を含む集団もまた行動の主体となったりする。人々は望ましい結果を生み出すのに集合的な力があるという共有の信念がある。学級・学校、会社、競技チーム、政党などの「集団や組織における集合的効力」のことである。
例として適切ではないかもしれないが、2011 年の東日本大震災後の復興に際し、「たちあがれ日本」「ガンバレ日本」などといったスローガンがある。わが国の集合的効力が日本国民のみならず世界各国から注目されているといってよいだろう。
動機づけの研究に長年取り組んできた速水(2010)は、自己効力感の源を成功経験だけでなく、「失敗に耐えて向かっていこうとする心」だと述べた。「成功に行き着くまで何度も失敗に直面したにもかかわらず、あきらめずに粘ってがんばったという経験こそが自己効力感の源だ」と指摘している。
また、負の感情のもつポジティブな動機づけ面に注目すべきで、「失敗することを恐れないことが、自己効力感を形成するのに重要である」と指摘している。
『効力感(competence)』はホワイト(White, 1959)が環境に効果的に働きかけられるという「コンピテンス(有能感)の動機づけの側面を強調した概念」であるが、『自己効力(self-efficacy)の概念』は、バンデューラが「社会的認知理論の中核をなす概念」として自己効力を提案した。
人間行動の先行要因として、『効力期待と結果期待』を示すが、「効力期待は、行動の主体である自分自身がある行動をできるかどうかという期待」である。この「効力期待を自己知覚したものが自己効力」であり、「結果期待は、ある行動がどのような結果を生み出すのかというという期待」である。
バンデューラは、「効力信念が人間行動の基礎」であり、その核心は「自分は自分の行為によって効果を生み出す力をもっている」というものであると述べている。
『自己効力(self-efficacy)』と『効力感(competence)』とを混同しないよう注意が必要である。
患者中心の医療の実現とエンパワメント(Empowerment)
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