患者中心型の医療(patient centered medicine)
欧米では1980 年代当時、すでに「インフォームド・コンセント(informed consent)」や「患者の自己決定」を重視する、いわゆる『患者中心型の医療(patient centered medicine)』が実施されていた。
しかし実際には、増加し続ける「医療訴訟」等に備えた、医療者側による自己防衛的で形式的な医療といった傾向も目立ち始めており、この点にも批判が集まっていた。
当時はまた、こうした医療の現状に不満を持つ患者や家族等が、自らが求める理想の医療を目指して活発に活動し始めた時期でもあった。
これらの動きを受けて、すでに医療現場においても確立されつつあった『患者の権利』を守り、また医療者と患者との対等な関係形成を促すためには、医療者側の意識改革とともに、「何よりもまず患者への教育的支援が不可欠である(ヘルス・リテラシー/health literacy)」 ※1 と考えられたのであった。
そこには、長期的観点からの医療費抑制効果が見込まれていたことは言うまでもない。
こうした判断のもと、患者自身を一つの「医療資源」として捉え、その潜在的な能力を活かすことで新たな医療の流れを実現しようとする動きが起こる。
こうした動きは、さらに患者の政策決定への参加に道を拓くことにもつながっていった。
欧米では現在、「新薬の承認」等を含め、患者にとって重要な法案を審議採決する際には、患者代表者の参加が不可欠の要件とされている場合が多い。もちろんそこには、医療の利用者としての『患者の責任を明確化』させようとする意図が働いていることも事実である。
しかしこうしたさまざまな取り組みをとおして、医療者の側にもまた、『専門家として果たすべき社会的責任や義務』が存在することを広く社会一般に認識させる役割を果たした点にも注目しておく必要がある。
協働の医療(collaborative medicine)
欧米では1990 年代以降、医療者と患者とが協力して治療や健康増進に取り組むこうした試みが、医療現場で盛んに取り入れられるようになった。
『協働の医療(collaborative medicine)』と呼ばれるこうした動きの背景には「慢性疾患の時代」という疾病構造の変化に加えて、さらに『医療の社会的側面への関心の高まり』があげられるであろう。
すなわち、医療とはそもそも「専門家」だけに委ねるべき領域ではなく、むしろ社会へと広く開かれていくべき領域ではないかという認識であった。
『協働の医療(collaborative medicine)』が提唱されるに至った背景には、今日の医療の原点となった「人権思想」や患者の「人間性の尊重」を目指す一連の動向に加えて、自らの「権利の拡張」や「理想の医療」を求める患者側の積極的な活動の存在が大きな原動力となっていたことがある。
そしてまた、「治療自体の高度化や専門の細分化」、さらには地域における保健医療業務の拡大など医療自体の多様化がすすみ、結果的に医療者間での権限の分化や委譲などの必要性が生まれたといったように、医療経済的な問題も含めた医療システム側の諸々の事情も忘れてはならないだろう。
それらが『患者の権利』をめぐる要求と連動しながら、医療の新たな動向を形作ることになったのである。
※1 ヘルス・リテラシー(health literacy):患者の潜在的能力の向上や医療技術の伝達を目指す一連の試みは「ヘルス・リテラシー(health literacy)」と呼ばれており、すでにアメリカやカナダでは大学病院や大学と提携している教育病院等を拠点として展開される、地域保健医療の中心的活動として位置づけられるようになった。そこでは「セルフマネジメントプログラム」と呼ばれる慢性疾患の患者のための「教育プログラム」が組まれており、疾患を中心とした医療情報や医療技術の提供はもとより、患者の日常生活から精神面での自己管理に至るまで、患者が抱えるさまざまな問題に具体的に応えられるよう、さまざまな配慮がなされている。
セルフマネジメントプログラム(Self-Management Program)
LEAVE A REPLY
コメントを投稿するにはログインしてください。