ウェブが普及しはじめた2000年前後には、ウェブユーザビリティに関する関心が高まり、それを裏付ける現象として、下記のように多数の書籍が刊行されたことが指摘できます。
すなわち、Spool et al.(1999)やNielsen(2000)21)、Pearrow(2000)、Krug(2000)、Nielsen and Tahir(2002)、Garrett(2003)などが 邦訳出版され、国内でも、ビービット(2001)など多数の書籍が出版されました。
この背景にあるのは、商用目的でのウェブを利用した買い物の場としてのe-commerceサイトが、amazonや楽天を始めとして、急速に普及発展したことが挙げられます。またウェブにおける企業サイトの数も膨大になり、今では大企業はもちろん、中小企業でもウェブサイトを持っていないところのほうが少なくなりました。
こうした商用のサイトの場合、その「ユーザビリティ」が低いと使いにくいサイトだということで、そこから離れてしまうユーザが多くなり、ひいては売り上げや企業イメージの低下につながりかねません。そうした理由から、各企業は自社サイトのユーザビリティの向上に熱心にならざるを得なかったと言えます。
こうした動きには、当然、ユーザビリティへの関心の高まりにつながることになり、もうひとつは、Webユーザビリティの隆盛に影響した要因として、当時関心が高まっていた「ユニバーサルデザイン(universal design)」や「アクセシビリティ(accessibility)」の動きに関連して、『ウェブアクセシビリティ(web accessibility)』が関心を集めたことを指摘できます。
そのため、これらのテーマに関する書籍も、Paciello(2000)27)、ソシオメディア(2003)をはじめとして多数出版され、またWebユーザビリティを向上させるための「情報構造(IA:Information Architecture)」のあり方も関心を集めるようになります。
このテーマについては、Wurman(1997)、Rosenfeld and Morville(1998)、Kalbach(2007)などが詳しく説明しており、後二者については邦訳も出されています。
こうしたユーザビリティへの関心が高まってきた一方で、Carroll and Thomas(1988)のように、それらのユーザビリティ研究が「ユーザビリティに関する主観的判断に強い決定的要因となりうるものを無視してしまった結果、人々が真に利用したいと思っているシステムを提供しそこねている」ことを指摘する動きもでてきました。
たしかにビッグユーザビリティは、新機能や性能という魅力的側面を含んでおり、「魅力的品質(attractive quality)」と同様の内容を含んではいるものの、もともとスモールユーザビリティを出発点として発達してきたユーザビリティ工学では、どちらかと
いうと魅力を作り出すことよりは、ユーザの不満足を軽減することに力点を置いてきたことは否めません。
そうした考え方をベースとして、Normanは「ユーザエクスペリエンス(UX)」という概念を考えだしたのですが、この点に関しては、Merholzとの対談の中で、Normanが1998年に次のように語ったことが記されているます。
すなわちNormanは、「私はヒューマンインタフェースやユーザビリティという概念が狭義に過ぎると考えて、このUXという概念を作り出した。私は、インダストリアルデザインのグラフィクスや、インタフェース、物理 的な対話操作、マニュアルといったものを含む、システムに関わりを持つ人々の経験のすべての側面をカバーしたかったのだ。」と語っています。
そして、「以来、その言葉は多方面で使われるようになり、しかし、あまりに広く使われるようになった結果、当初の意味を失いつつある」とも語っています。
1998年に出版された著書のなかでUXは、「製品に関して、それがどのように見え、学習され、使用されるか、というユーザのインタラクションのすべての側面を扱う。これには、使いやすさと、最も重要なこととして、製品が満たすべきニーズとが含まれる」と定義されています。
∞ Meta Paradigm Dynamics のコア・コンピタンス
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