前回までの「ALL Quadrants(全象限・四象限)」の説明において、あらゆる事象には少なくとも「私」・「私たち」・「それ」と呼ばれる三つの領域(「ビッ グ・ スリー」 )が存在するということ。そのどれかの領域を重視するのでなく、そのすべてを尊重することが「AQAL(アークル)」、つまり「インテグラル・アプローチ」 を意味すること。そして、ある領域のみを重視する偏った視点がいかに歪みを引き起こし、自己矛盾(「誤謬(Quadrant Absolutism)」 )に陥ってしまうかを示しました。
ここからは個人の成長を取り上げながらながら、AQALにおける「ALL Levels(全レベル)」が示す、レベルや段階についてどのような見解を持っているのかを説明します。
超 え て 含 む
あらゆる成長・発達(あるいは進化)には、「超えて含む(transcend & include)」というプロセスを踏んでいます。
新しいレベルの誕生とは「創発(emergence)」であり、全く新しい構造の出現です。
「超えて含む」とは、古いレベルの基本的な特性が、新しいレベルの誕生と共に捨て去られることなく維持され、継承されていくことを的確に表現した言葉です。
例えば人間の脳などは典型的に「超えて含む」というプロセスを経って進化してきたということが、ポール・D・マクリーンの有名な研究によって示唆されています(下図参照)。
ここで強調すべきことは、「何もかもが含まれるというわけではない」という事です。
発達は基本構造( basic structures)――その段階固有の特性、能力など――は保存しますが、排他的構造(exclusivity structures)―― その段階固有の世界観(自己中心的世界観・自民族中心的世界観 等)を否定します。
例えば成熟した大人は、子供時代に培った言語能力、情緒や身体感覚といった基本構造を継承しています。しかし子供時代の自己中心的な世界観といったものは、より成熟した世界観によって排除されます。
「超えて含む」と表現される様態の最も包括的かつ代表的なものとして、太古からの宗教的伝統の世界観である「存在の大いなる入れ子(the Great Nest of Being)」が挙げられます(下図参照)。
スピリットは魂を超越していますがそれを含み、魂は心を超越しているがそれを含み、心は生命を超越していますがそれを含んでいます。
すなわち、「超えて含む」一連のプロセスの重層的なイメージであり、それが上記の図の同心円状のイメージなのです。
尚、スピリットが最上位にあると同時に円外にある理由は、それが到達点であると同時にすべての存在の基盤としてあるからです。
より詳しく知るためには「ホロン」という概念の理解が欠かせません。ホロンはアーサー・ケストラー が作った造語で、「ある全体はより大きな全体の部分である」という発想を元とし、定義は「全体であると同時に部分」となります。
例えば原子はそれ自体で全体ですが、分子の部分でもあります。また単語という全体は構文の中の部分であり、構文という全体は文章という全体の部分です。何が上位で何が下位かを調べるには、下位のホロンを破壊したときに上位のホロンが破壊されるかどうかを調べればその階層的レベルが判断できるのです。
原子を破壊すると分子が消えますが、分子を破壊しても原子は消えません。
つまり、「リアリティは部分/全体であるホロンから構成されている」といえるのです。
ホロンという概念を使う理由として、宇宙から「存在すべてのレベルと領域に共通する実体、あるいは共通するプロセスを見つけようというまったくムダな努力から解放される(ケン・ウィルバー)」ということが挙げられるでしょう。
ムダな努力とは宇宙は素粒子でできている、あるいはクオークでできているというような、ある特定の領域のみを特権化する試みを指しているのですが、そうではなく、「あらゆる存在がホロンであり、宇宙とはホロンとホロンが織り成すホラーキー(ホロン階層)である」というのがAQALにおける「ALL Levels(全レベル)」が示す立場なのです。
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