「ユーザエクスペリエンス(UX)」という概念は今世紀、特に2000年代の後半から現在に至って、これまで「ユーザビリティ(usability)」に関する活動を行ってきた人々だけでなく、マーケティング関係者や営業関係者など、企業活動を例にとればより広範な関係者に利用されるようになり、従来のものづくり関係者だけではない広がりを見せています。
しかし、概念定義の標準がないため、単なるセールストークになってしまっている側面もあり、そうした状況のなか、特に欧州の関係者は概念定義について議論することが多く、その中から「感性的側面」を重視する見方がでてきました。
それに対し、アメリカはどちらかというと、使えるものなら何でも使って売り上げアップを図ろうという傾向で、概念規定は後からやろうとする傾向があり、そうした動きのなかで、従来の中心的概念であったユーザビリティは、品質特性の一部として重視されつつも、それに加えて感性的側面を重視する傾向が強くなってきています。
ユーザエクスペリエンス(UX) について、意味(meaning)、品質(quality)、感性(kansei)という「3次元の評価空間」を想定し、特にその感性面について、現在、国際的にも議論になっている感性品質(hedonic quality)や美学(aesthetics)との関係を、認知心理学や感情心理学の考え方を導入しながら議論する試みもすでに実施されています。
また、感性工学の分野において感性面に注目し議論をする場合は、未だに明確になっていない感性の概念を、UXとの関係で具体的に定義してしまおうとする試みがあるためです。
いずれにしても、ユーザエクスペリエンスについて論じるためには、それ以前に関係者にとって中心的なものであったユーザビリティという概念とその限界について触れる必要があり、さらに、ユーザビリティについて論じるためには利用品質にまで遡って考察しておくことが必要です。
品質とは文字通り品物の質のことですが、その定義には対象とする品物の種類や品質に対する立場によって様々なものがあり、主に3つを指します。
「品質管理(QC:Quality Control)」では、品質に対する要求事項を満たすべく品質を管理し、また部品やシステムが決められた要求を満たしているかどうかを前もって確認することを重視し、現状の改善を目指していきます。このため、品質特性が定義されており、各品質特性に関する水準が所定のレベルで維持されることが重要になります。
これに対し、品質を保証するエビデンスを提供しようとする「品質保証(QA:Quality Assurance)」の立場では、最初から目標とする水準を設定し、それを目指して高い水準の品質達成を目指そうとします。
これらの動きが製品出荷時の品質の維持を目指しているのに対し、タグチメソッドとも呼ばれる「品質工学(QE:Quality Engineering)」の立場では、出荷した後の市場における品質に焦点をあて、品質を、製品が出荷後に社会に与える損失と定義しています。すなわち、消費者にとっての損失を最小化しようとする活動といえます。
具体的な品質特性については、性能や強度、信頼性、寿命、不良率などの狭義の特性から、製品出荷後の問題に関する安全性や製造責任(P L:Product Liability)などもあり、その範囲を明確に限定することはむつかしいことです。
特にソフトウェアの品質については、ハードウェアと比較して外部から測定することが困難であるため、ソフトウェアに関するユーザビリティ(usability)については、それを規定した「ISOの規格」があり、特に対話型システムに関して問題となったユーザビリティに対する関連性も高いので、工学分野では、その立場に立った品質特性の定義を援用しています。
∞ Meta Paradigm Dynamics のコア・コンピタンス
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