五大疾患の基盤病態『慢性炎症』とその対策

2014-10-18

日本政府は、15年前から科学技術立国再生を目的として科学技術基本法および科学技術基本計画(5年毎に総予算25兆円の継続投入)に則り綜合科学技術会議の方針に従って、文部科学省(日本学術振興会及び日本科学技術振興機構)、経済産業省(NEDO=新エネルギー産業技術総合開発機構)及び総務省、厚労省(再生医療実用化研究、創薬基盤推進研究、医療機器開発推進研究、難治性疾患・特定疾患克服・治療研究など)、農水省など合計8省が競争的研究資金として合計5000億円以上を大学及び研究機関に交付している。

文部科学省はそのうちほぼ4000億円の予算を擁して、科学研究費補助金(約1950億円;学術振興会経由)や戦略的創造研究事業(約500億円;科学技術振興機構経由)また二つのCOEプログラム(合計約400億円)などに研究資金を交付している。

厚生労働省は、2006年の医療法改正で地域医療の基本方針に死亡原因の大半を占めるガン、脳卒中、心疾患及び糖尿病を四大疾患として指定していたが、2011年8月には患者数が急増する「精神疾患」を追加して『五大疾患』として基本方針において重点的に対策を講じることとなった。

厚労省によれば、うつおよび不安障害を中心として精神疾患患者数は2008年で323万人に昇り、ガン(152万人)や糖尿病(237万人)を上回り、特にうつ及び不安障害の患者が増加していて、ほぼ3万人の自殺者の大半がこれら精神疾患を抱えていると推定している。

そのほか2013年6月の構成労働省研究班の発表によれば、2012年に痴呆患者数は予備軍を含めて462万人であり、2010年において既に440万人に達していたと推定されており、慢性閉塞性肺疾患患者数約500万人と併せて膨大な数の「慢性疾患病人」がいることになる。

このような状況のなかで、『慢性炎症』が、ガンや脳・心血管病などの生活習慣病及び上記精神疾患や神経変性疾患、自己免疫疾患等すべてに共通する基盤病態を構成することが明らかにされ、疾患を惹起したり増悪させるものとして注目されている。

微生物感染に代表される「急性炎症」が自然免疫の一環として生起し、その後短期間で終結・治癒するのに対して、「慢性炎症」は、ストレス応答が低レベルの炎症として長期間炎症の四徴候を伴うことなく継続する結果、適応破綻を来たし、組織の線維化、マクロファージや炎症細胞の浸潤による組織細胞の肥大化・増殖などによって臓器の構造変化と機能不全をもたらすとされている。

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これまでに判っていることだが、慢性炎症は、脂肪細胞肥大化、動脈硬化、自己免疫反応などの内因、また弱毒性病原菌(結核菌やカビ類)の感染やアスベスト吸入などの外因によって惹き起される。

具体的には、肥満、内臓脂肪、高血糖、高脂血や高血圧などが原因となり、発症の原因との深い相関関係が成り立っているとされ、慢性炎症の発生機構や病態、治療法、予防法が目下研究されている。

政府は、科学技術振興機構を通じて「炎症の慢性化機構の解明と制御に向けた基盤技術の創出」を目指して平成22年度から研究課題の公募によって「CREST」及び「さきがけ」の名称の下で戦略的創造研究推進事業が始まり、現在も進行中である。

慢性炎症の発症・進行によって、消化器ガンなど各種ガン、うつ病など神経変性疾患、骨代謝疾患、免疫疾患、網膜色素変性症などが惹起される機構が、「COX-2」1「NF-κB」※2 活性化・増幅経路の関与、また炎症進行過程で発生する「活性酸素によるNF-κBの活性化」など、細胞・分子レベルで解明されつつある。

即ち、『NF-κBの阻害』が慢性炎症の進行を阻害・停止させ、究極的に五大疾患の発症・治療のために極めて大きな意義を有することが明らかになりつつある。


 

1 COX-2(シクロオキシゲナーゼ):生理活性物質の一群に代謝する過程に関与する酵素

※2 NF-κB(エヌエフカッパービー):遺伝子の発現を調節する細胞内のタンパク質(転写因子)

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