前回はAQALにおける「ALL Levels(全レベル)」の説明において、あらゆる成長は「超えて含む(transcend & include)」というプロセスを踏んでいること、新しいレベルの誕生とは「創発(emergence)」であり、全く新しい構造の出現であることを示す例として、人間の脳などは典型的に「超えて含む」というプロセスを経って進化してきたということを示唆しました。

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今回は、個人の発達領域に存在する「複数のライン」、その中でも中心的なラインである『自己のラインついて詳しく観て行きたいと思います。


 

自己のライン

 

自己のラインとは、「自己感覚及びアイデンティティ」のことで、そうした認識を通して見えるところの「世界観のライン」が誰においても存在します。

人間の能力や人格的発達において、自己のライン以外にも複数のラインが存在しますが、このラインを一つの能力とした場合その成長と発達のレベルも当然のことながら存在することになります。

人の「成長」には二種類の方向性があり、一つは、「トランスレーション」という呼ばれる水平的な成長。もう一つは、「トランスフォーメーション」と呼ばれる垂直の成長です。前者は「知識の量的増大に伴う成長」であり、後者は「知恵の質的上昇/深化に伴う成長」です(もっとも、一般に「成長」といえば、後者を指す場合がほとんどではありますが)。

人間の人格的発達とはそもそもひとつの尺度(例えば知能など)で測れるものではなく、他の領域に多様な能力の可能性があることを認識・尊重することを通してはじめて全体的な理解が出来るものです。

それらの定義については、ハワード・ガードナーの「マルチプル・インテリジェンス理論(Multiple Intelligence Theory)において、特に明確に多様なラインから 8 つの代表的なものを定義しています。※「自然」と「実存」は後の調査に基づいて追加したもの(1999年)。

* 言語(Linguistic Intelligence)
* 音楽(Musical Intelligence)
* 論理・数学(logical-mathematical)
* 空間感覚(Spatial Intelligence)
* 身体・運動(Bodily-Kinesthetic Intelligence)
* 自己(Personal Intelligence―intrapersonal と interpersonal)
* 自然(Naturalist Intelligence)
* 実存(Existential Intelligence)

またケン・ウィルバーは、こうした自己のラインにおける発達モデルを東西にわたる70 人を超える理論家を調査し、その「発達の構造の普遍性・類似性」を証明しています。下図ではその中から代表的な 4 人、左からケン・ウィルバー、アブラハム・マズロー、ジェイン・レヴィンジャー、ローレンス・コールバーグを取り上げたものです。

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自己のライン F-1 の”F”は支点(fulcrum)


 

成長とは自己中心性の減少

 

ハーバード大学の発達心理学者ハワード・ガード ナーは次のように指摘しています。

「成長とは自己中心性の減少のプロセスである」

「幼児は全面的に自我中心的(エゴセントリック)である――というのは、自分のことだけを利己的 に考えていることではなく、逆に、自分自身のことを考えられないという意味である。自我中心的な子供は自分以外の世界と自分自身を差異化できない。他人または客体から自分自身を分離していないのである。そこで、他人は自分の苦痛や快楽を共にしている、自分のモグモグ言うことは必ず理解されるだろう、自分の展望はすべての人と共有されている、動物や植物さえ自分と意識を共有していると感じるのである。(中略)人間の発達の全コースは、自我中心性の連続的な減少と見なされる……」

自己愛、または自己中心性は、差異化が最小な状態の支点 1(F-1)が最大で、支点 2 へと移行するにつれて減っていきます。最初の最も重要な変容が支点 4 の「規則・役割的」の段階であり、ここでは他者の眼を通して自分自身を律することが可能となり、自己中心性は一層減ることになります。

AQAL(インテグラル理論)では、自己中心性減少のプロセスとして少なくとも 3 つの段階を示唆しています。

1. 自我中心的 (F-1 の「感覚物質的」~F-3 の「表象的心」)
2. 社会中心的・自民族中心的 (F-4 の「規則・役割的自己」)
3. 世界中心的 (F5 の「形式的・反省的」~)

ここで解るのは一見「自己中心的」に見える大人でも、本当の意味で自我中心的である人はほとんどいないということです。そういう人はたいてい「社会中心的」であり、会社や学校やマスメディアといった何らかの「コミュニティーの価値観」を行動原理としていることがほとんどといってよいでしょう。

また、二つ目の重要なポイントは、「世界中心的」な視点の広がりが「形式的・反省的」な自己のレベルと共に現れるという事です。あらゆる既存のコミュニティーの価値観から脱中心化するプロセスを経て、人ははじめて「私」と「私たち」にとって、「本当に重要なのは何か」と内省することが可能となり、そうした「内省のプロセス」を通して、ある特定の他者の眼だけでなく、あらゆる他者の眼を自分の中に包括し、その結果、これまでにない「自己中心性の減少と幅広い視野」を獲得するのです。


 

新しい世界観の獲得は、新たな問題を生む

 

最後に、自己の発達における基本的なプロセスである『1-2-3 構造』、そして『発達段階特有の病理』について触れておきたいと思います。

1-2-3 構造とは、自己の発達における基本的なプロセスであり、以下の3つの構造が挙げられます。

1. 融合/同一化: 自己は意識の新しいレベルへ発達ないし進化する。そして、そのレベルと同一化ないし「一つ になる」。
2. 差異化/超越: 次にそのレベルを超え始める(ないしそこから差異化する、あるいは脱同一化する、あるいは超越する)。
3. 統合/包含: 新しい高次のレベルに同一化する、あるいはそこに中心を置く。

 

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このプロセスは、自己の発達レベルのすべての段階で繰り返されるものです。発達の過程で「1-2-3 構造」のステップがうまく運ばない時、その段階特有の病理が発生するのです。それは、一般的に「低次の段階でのつまずき」ほど症状は深刻なものです。

また発達とは、「新しい世界観の獲得」であり、「視野と自由度の拡大」であると共に、『より多くの問題、より困難な問題を担っていく』ことでもあるのです。

自己のラインにおいて発生する可能性のある「段階特有の病理」には、およそ次のようなものがあり、それぞれの病理にはそれぞれの「治療の様式」が実はあるという点に注目して下さい。

 

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つまり、私たちにとって大事なのは「あらゆる状況に対処できる治療の様式を見つける」のではなく、『対処すべき特定の状況にふさわしい治療を見出す』ことなのです。なぜなら、すべての視点に真実と盲点を含むように、治療の様式もまた同じく真実と盲点を含むからです。

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