IPX探究の焦点「マインドフルネス」

医療目的におけるこれまでの取り組みはすべて、QOLに対する一つの手段に過ぎない。

 

少なくとも私が考えるIPXとは、「病気」=「医療行為」と言う図式が過剰に社会に浸透すること、人間の健全性のすべてが『医療化(m e d i c a l i z a t i o)』と言う現象に沈み込むことを食い止めるために、患者の立場から医療そのものの行為が及ぶ範囲を全ての人々に明確に認識させる目的も大いに含まれている。

医療化とは、医療の知識と技術が臨床の場を超えて人々の日常生活に浸透してゆき、直接的には医療と関わりのない様々な活動においても医療専門家が大きな権限を持つようになることを意味する。

 

すなわち、知らず知らずのうちに、日常生活が医療の支配・影響・監督下に入ってゆくことである。

 

この問題については、今後の叙述で詳しく取り上げて行きたいと考える。

 

IPX探究の焦点として、一つは「マインドフルネス」について記述しておきたい。

マインドフルネスとは、“今ここでの経験に、評価や判断を加えることなく、能動的に注意を向けること(Kabat-Zinn, 1990)” を意味する心理状態である。

マインドフルネスが意味する特別な注意の向け方は、瞑想法を中心とした訓練によって向上されることが知られている。

 

マインドフルネスのトレーニングに基づいた介入技法は、ネガティブな情動の制御を高め、日々の活動のパフォーマンスを良好にし、ウェルビーイングの感覚を達成させると考えられており(Kabat-Zinn,1994)、実際に、うつや不安に対して安定した効果を有することも報告されている。(Hofmann,Sawyer, Witt, & Oh, 2010)

また、マインドフルネスは介入技法として広く知られるが、マインドフルネスが本来意味する自己の体験に対する特別な注意の向け方、すなわち、能動的にかつ感情的にならずに注意を向けることは、少なからず、日常的に誰しもが経験しうるものである。

日常的に経験するマインドフルネスのレベルが高い人は、うつや不安、ストレスが低く、幸福感やウェルビーイングが高いことが報告されている。(Baer,Smith, Hopkins, Krietemeyer, & Toney, 2006)

 

このように、マインドフルネスは心理的適応のための一方略として重要な意味を持つと思われる。そのため、マインドフルネスを高める要因を明らかにすることは、臨床心理学や健康心理学の観点から重要な課題となっている。

マインドフルネスを経験する個人差に、注意機能が関与していることは、これまでに多くの論者によって議論されてきた(Bishop, Lau, Shapiro,Carlson, Anderson, Carmody, Segal, Abbey,Speca, Velting, & Devin, 2004; Shapiro, Carlson,Astin, & Freedman, 2006; 杉浦,2008)。

例えば、杉浦(2008)は、マインドフルネスに基づく治療法の効果が奏功する基盤として、「注意機能の向上」が関与することを指摘している。

実際に、マインドフルネスの訓練は、様々な注意に関する認知課題のパフォーマンスを向上させることが知られている(Chiesa, Calati, & Serretti, 2011)。

注意の訓練としての側面が、マインドフルネスの訓練の中核をなすことが示唆される。また、注意の働きが情動制御に深く関与していることは、従来からも指摘されている(Gross, 1998)。

 

そもそも注意とは、認知心理学の観点から、情報の取捨選択などを含む情報処理の過程において、中心的役割を果たす機能として捉えられてきた。

Posner & Petersen(1990)によれば、ヒトの注意は、「注意の喚起機能」「注意の定位機能」「実行注意」と呼ばれる3つの相互に独立した機能で構成される。

喚起機能とは、予測される刺激に対して反応準備を高め、それを維持しておく能力を意味する指標であり、持続注意や注意のヴィジランスを反映する。

定位機能は、注意によって複数の選択肢からある情報を選択する機能を意味し、選択的注意や集中力を反映する。

実行注意は、モニタリングや複数の処理過程に対立を含む場合の機能を意味し、分割注意や葛藤モニタリングを反映する。

Posner の理論から、我々は、これらの注意機能の働きによって、外界からインプットされる視覚情報を効率的に処理していることが示唆される。

 


 

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